中村 知世
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一般社団法人社会調査支援機構チキラボ 特任研究員/東京大学 非常勤講師/放送大学 客員准教授
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専門:教育社会学、ジェンダー論
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所属学会:日本教育社会学会、日本社会学会など
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博士(教育学)
研究関心
現代の能力主義がはらむ構造的排除をジェンダーやセクシュアリティの視点から計量的に明らかにするための研究を進めています。
現代の能力主義ーーそれは「メリトクラティックな学歴獲得競争」を具体的には指します。この学歴というものは、歴史的には男性化された能力の証明書として機能してきたものです。そして戦後、学歴獲得競争は大衆化したと言われていますが、実際には、共学内部に別学体制を抱えた二重構造のもとで進行しており、女性は男性の高学歴化を「後ろ」から追う形となっていました。男性の大学進学が進む一方で、女子は就職へ、そのうちに女子も高等教育機関へ進学するようになりましたが、四年制大学ではなく短大へ、といった具合で、棲み分け(=ジェンダー秩序)が1980年代くらいまでありました。
そして現在、こうしたジェンダー秩序は崩れ、女性の多くが四年制大学へ進学をしています。
その一方で、少子化による高校統廃合は、新たなジェンダー秩序を生み出している可能性が、私の研究では明らかになっています。(詳しくはこちらをご覧ください)
自治体が統廃合対象とする高校を決める方法の多くは、「「標準規模」とされた定員が満たされないこと」としています。
つまり、人々から選ばれない高校を統廃合の対象としています。
能力主義のもとにある人々が選択する高校とはどのような高校か・・・それは端的に言ってしまえば、将来「稼げる力」を身につけられる可能性の高い高校です。現代の暫定的な能力証明書である学歴獲得に有利な高校が、「選ばれる高校」となりやすい状況です。
この「選ばれる高校」以外が、急速に縮小する中で、多くの高校が「選ばれやすい高校」になるために、ますます能力主義に傾倒し、その結果、学歴獲得競争に新規参入する層も生まれます。その典型が、女性です。
それと同時に見逃してはならないのが、その能力主義の尺度において「劣位」とされた能力育成領域が、ますます周縁化する事態です。例えば家庭科学科は歴史的に女性化され、ケア能力を育成する教育領域ですが、この能力主義下の高校再編でその価値が貶められる状況にもあります。
近代社会が原理とする能力主義は今日、ますます先鋭化、効率化していると言えるのかもしれません。それがこれからの社会にとって何をもたらすのか、どのような社会を教育から構想していったら良いのか、このようなことを研究していきたいです。

